私の森は花盛り‥  ヤマツツジ

  いつものように段丘斜面にうがたれた小さな谷をたどり、一番近い森に出る。

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 いつの間にか夏の繁りになった森は暗く沈み始めている。 その中段に一条の赤い帯が走っているのを見つける。

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  ああ、そうなんだ。 下の里ではそろそろ終わるヤマツツジが、この森では今が満開の頃なのだ。

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  そこに道がないのが森のあるべき姿。 でも道は幾本もあるのです。 けものみちに慎重に足裏を重ねて進む。

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  隠れるように咲く赤を、木漏れ日が秒の速さで塗り替えていくのを ただ見ている。 ひとり見ている。

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  けものみちは、彼らがそうしたのが当然なように、そんな確かさで私を木の傍につれていく。

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  森の時間は穏やかだ。 里ではすぐに白む花が、ここでは不思議なほどその色を保っています。

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  誰が植えたのでもない。 森が育んで咲かせた花が、今は暗い木陰を 礼するように飾っているのだ。

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 この花の前に立ちつくしたのは私ばかりではないな。 母鹿の足跡に消え入りそうな小さな蹄が寄り添っている。

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             時に花は 無彩色な木々の幹を 登るように立ち上がり‥ 

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  わずかに開いた空を 遊び飛び‥
  
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  落ちてなを くすんだ土を染めている。              今 私の森は この花の花盛りなのだ。



    不遜なことに、私はこの森を私の森だと思っています。
    この国ではどんな小さな地面でも、誰かの持ち物でないとならないので、この森も個人や町や入会やらで
    きっとパッチワークのように区切られていることは確かです。

    もちろん歩く森に私の所有するものなど、砂粒ひとつないのだけれど‥
    この森はいつでも私のこころの丸ごとを所有してしまう。   だからこの森は、まぎれもなく 私の森。

久しぶりに出逢った、この森の住人。
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# by moraisan | 2016-05-18 22:26 | 山野草・樹木 | Comments(10)
minimum flora ‥

  それが花びらも蕊も備えた花ならば、その多くは虫たちへのアピールでありサインなのだと習ったはずだ。
  おかげで私も多くの花に気づけるのだけれど、目を凝らしても詳細が見えないような小さな花にも出逢います。
  
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  ミミナグサほ全体の趣きの良さに惹かれます。 歌に詠み、摘み菜にした先人の豊かな目を思います。

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  小さいと言ってもハコベの花くらいはあるのですが、この花は大きく開きません。 開花径は3ミリ程度。

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  冨成忠夫氏が小人のかんざしにしたいと書かれていたキュウリグサの花です。

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  花径はわずか2ミリ。 その中にこの造形を組み立てて見せる自然の妙。 レンズをありがたく思う花です。

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旺盛な草丈の勢いと、絡みついてくる棘だらけの茎。 注意して見ないと、花の存在すら不確かなヤエムグラです。

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  花径は1ミリと、顕花の中では最小クラス。 レンズやルーペの力を借りて、ようやく見ることかなうこの花です。


   周りの夏草や自らの草勢いに、ともすれば没してしまいそうな小さな花たちです。
   衰えのはげしくなった肉眼では、そろそろ見えづらくなってきた花たちですが、
   案内されるのは、足元にさえなを広がっている 世界であったりもするのです。


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# by moraisan | 2016-05-15 05:06 | 山野草・樹木 | Comments(8)
聖なる山の雪‥ コンロンソウ

  この花の名の由来を知ったのは、比較的近年のことです。
  崑崙は中国の聖なる山。  神話上のこの山の 雪に見立てられたこの花です。

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  そんな人の勝手を知ってか知らぬか‥ この花はどこにも多い。

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  かといって道端の草と言うわけでもなく、きまって木漏れ日の落ちる林縁や清水の流れる水辺を好む。

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        腰を下ろして休む傍らにいつもあるものだから、この花にはレンズさえ無粋に思えてしまう。

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  雪がそうであるように、この花は自らを少しも飾らない‥   こころ静かにして 好きな花である。



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# by moraisan | 2016-05-11 20:47 | 山野草・樹木 | Comments(6)
太古の壁を登る藤‥

  夏の到来を告げるように、山野に藤の色が増え始めました。
  周りがそもそも山なので、藤を見るのに事欠きませんが、それでも毎年気にしてやまない藤があります。

  以前拙ブログで記事にした時は、『懸崖の藤』としたものです。
  長くこの地に暮らすうちに少しは分かった事もあり、当時のタイトルの不適切さをが気になっていてました。
  近年少し衰退したかにを見えていたこの藤が、今年は見事な復活を見せてくれました。
  以前の記事の訂正も込めて、改めてご紹介したいと思います。
  

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  千曲川に面して立ち上がる大きな露岩があります。 地元では天狗岩と呼ばれています。
  脇を高原鉄道と銘打ったローカル線が走っていて、鉄道ファンがよく撮影に訪れます。
  ただ藤に関しては、真下が鉄路や私有地の田畑であることもあって近づけず、あまり注目されてないようです。
  私自身は地の理もあって、この岩下に立てますが、今度は見上げる大岩の全貌が捉えきれません。
  そんなわけで、多くの写真でのご紹介になりますが、この一枚目の写真から場所をご想像いただけたら幸いです。

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  大きく畑を迂回して、天狗岩の下に至ります。 日がだいぶ西に傾ぐ午後、岩自身が大きな陰をつくっています。

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  この場所の藤はまだ丈小さく手に届くほどなので、ゆっくり花やその香を楽しめます。

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  藤の登るのは垂壁に近く立ち上がっていてますが、藤以外にも果敢にその根を下ろすものたちがいます。

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  ヤマツツジが少ない彩りのアクセント、アカマツなどは盆栽の形(こちらが先ですね)で食いついています。

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  ウツギなどはあんまり遠慮がちに咲いているので、遠目にはまるで違う木かとみまがうほどです。

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  西側に周りこんでいけば、いよいよこの壁の藤の核心に近づきます。

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  この藤が壁を登った要因のひとつは、落石よけの長大な金属ネットです。 岩の西面は千曲川にほんのわずか、 
  そこに鉄路と狭い県道が走りますから‥ それでもコンクリートの擁壁でなくてよかったと思っています。

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  実はこの藤の根元には近づくことができません。 目測に過ぎませんが距離高さとも15m程の藤の幹です。
  子供の胴回りくらいは楽にありそうです。 高さ100メートルの岩壁の3分の2程まで登る藤です。 

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  ここで前記事の訂正です。 懸崖の藤ではなかったのです。 この藤はひたすら登る藤でありました。

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  そしてこの藤の登る天狗岩はひとつの大きなチャートであるそうです。
  チャートは良くある岩石ですが、ここは標高約800メートル地点、岩の頭は900メートルを越えます。
  チャートは放散虫などの骨格の堆積岩だといいます。 堆積するのは4,000から8,000メートルの深海底です。
  目の前の岩塊が推定一億年から、二億年前の微細な生物の骸が深い海の底に積んで出来た岩だというのです。

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  藤は自立する樹木ではないけれど、その根は地上にあり水を吸い上げています。
  この藤がこの岩壁を登りきる日が来たのなら、およそ100メートル。 世界のジャイアントにも肩を並べる高さです。
  
  何気なく見ている景色にも、この地球(ほし)の長い時間が刻まれていてる。
  そして今この瞬間も その上に軽々と(そう見せるほど)奇跡を行ういのちがあふれている。
 
  それをぼんやり眺めるだけで生きて来たけれど‥  こころの中で賛歌を歌おう、調子はずれでも 最後の日まで。

  


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# by moraisan | 2016-05-07 23:16 | 山野草・樹木 | Comments(16)
夏の予感‥

  気が付けば暦は立夏。 季節のゆっくりだった森にも、夏の気配がただよう頃となりました。

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        ハルリンドウの名はあっても、日当り斜面にこの花を見る頃は、終わりを告げる春を感じます。

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      もうヤマブキは白んだ花が目立つようになったのを 一度だけ取り戻そうと森を行くのだけれど‥

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      そこにも傷みのない花はすでに少なくて、覗く空の気配にも 夏の到来を知らされます。

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    いつもなら、ひかえめにヤマブキの後を追いかけるモミジイチゴが 今季はずいぶん森に増えていて‥

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       今年は片掌くらいはもらってもいいだろうか? なんて いらぬ皮算用をしてしまいます。

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               イカリソウがさらに奥へと誘う路を ただただゆっくりと歩きます。
 
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            毎年同じような場所に見ながらも、また新しい表情を見せてくれる花たちです。

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        木々が被さる路に夕暮れは早く、風の強いのを言い訳に遅く来たのが少し悔やまれます。

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   ムラサキケマンも実を結ぶ時を迎えているのだから‥  そろそろ苦手な夏の 覚悟をきめねばなりません。



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# by moraisan | 2016-05-06 07:23 | 山野草・樹木 | Comments(6)
咲かない花‥  二輪草

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  雨の気配の強い夕方、風も向きを変えて強まり‥ 谷底の花たちは、光を恋うた姿のままに閉じていました。

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                                         ああ それでいい。 また逢いにくるのだから。



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# by moraisan | 2016-05-02 06:05 | 山野草・樹木 | Comments(4)
傷蝶‥  

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  枯葉色の蝶に逢う。 からだを凍らせて冬を越したキチョウであろう。

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  一片の鱗粉も残さず落として‥  凄まじさにたじろいたのは、それでもなおを それが美しく見えたからだ。



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# by moraisan | 2016-05-01 01:37 | いのち | Comments(10)
link‥  ニホントカゲ

  天候が変わるのはわかっていた。
  しばらく行けてない森に入るつもりが、入口を前にしてズミ(前記事)につかまってしまう。
  この花と再び逢うのは‥ 木の傍でゆっくり 珈琲と一本の煙草。 過ぎ去る時間に抗う 私のおまじない。

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  森の入口までの少し急な坂道はスミレたちが奥の時間を教えてくれる。
  最初がアカネスミレ、まだ日もなさそうなのに、ずいぶん花も葉も虫食いです。 森はカタクリの花を終えた頃だ。

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  斜面に片肘ついて花を覗き込んでいたら、すぐ傍で横目でこちらを見ているのに気づく。

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  この距離で最初に見つけたのが彼の方なら‥ たぶん大丈夫(何が?) 上体だけで後を追う。

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  カサカサと大きな音を立てるから‥ 狩りの名手というわけではない。

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  それでも当人はなかなか真剣に楽しんでいるのだ。 狩りではなく 生きることを。

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  曇り空からの薄日でも、春の午後は温かいから彼は時々ゆっくり目をとじる。 見ている私も眠くなる。

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  もうレンズフードの先端は目と鼻の先。 もうただ地面の上の二人きり、もう どちらがどっちだっけね。

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  急ぐ風もなく4、5メートルも先にいったのが、また戻って来たのを見て立ち上がることにする。
  カメラの履歴を見ればこの間17分ほど。 この日つかの間だけれど 彼とのリンクが取れたような気がする時間。

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  急に暗くなってきて、風も冷たくなってきた。 足元には好きなゲンジスミレも咲きだしている。

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  もう森を歩く時間はないな‥ 最初のアカネスミレに戻って撮りなおす。 その年の最初はいつも特別。

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  珍しいスミレではないけれど、好む場所ははっきりあるスミレだと思います。
  地上茎がないこと、側弁の根元に毛があること、カマキリ頭形の柱頭、僅かに翼のある葉などなど‥
  そんなことよりこの花の集いかた‥ これこそそがこの花らしく思えます。

  まもなく落ち始めた雨の中、帰り道。 気持ちばかりは小走りでした。


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# by moraisan | 2016-04-28 17:14 | いのち | Comments(6)
ズミの花咲く‥

  強い花冷えもあったせいで、桜は例年なみの開花となりました。
  その一時期戻った寒気と季節を飛び越えた高温に、多くの花が時を同じく咲き急ぎました。

  まだ遅い桜が残るうちに、ズミも一気に満開の時を迎えてしまいました。

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  里と森の境にある小さな畑の脇に、このズミはあります。
  あまり丈の大きくなる樹ではないのですが、幹の太さから、相応の時間を生きてきたように思います。

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  土地の人に聞いても、ずっと昔からあるということだけで、残されたのか植えられたのか定かではありません。
  ただ幹を分けて大きな樹冠をつくる様は、この樹らしく立派なもので、私はこの木の開花を楽しみしています。

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ズミと呼ばれる樹には変化が多いように思います。 この樹も山中で見るものとは花付きなどずいぶん違っています。

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  エゾノコリンゴの方に近く見える花ですが、樹姿からは やはりズミだなあと私は思っています。

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  この花の香はよく甘いと例えられますが、私はむしろ青くさい 青年の汗のようだと思ったりします。

  だからでしょうか‥ 青年にもなりきれないまま早逝した息子のことを この花は思い出させます。
  それは感傷などではなくて、不思議な明るさを持ってよみがえるのが 私にはとてもありがたかったりします。



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# by moraisan | 2016-04-25 02:17 | 山野草・樹木 | Comments(6)
故郷の花‥ 蝦夷蒲公英

  いくつかの地を転々としながら今日に至るが、気が付けば25年‥ この地が最長の地となりそうだ。
  
  故郷というものを思う時、もちろん育った家や家族、恩師や友人たちの顔も懐かしく浮かぶのだが‥
 それ以上に思い出されるのは、遊んだ森や草原、故郷の山や川や海、その上に広がっていた空だったりする。

  十八で故郷を離れ、少しは本気で植物(樹木)や動物(野鳥)の事を学びたいと思った時には、
 すでに故郷はもとより、この国は私の原風景に繋がるものの多くを失っていたように思う。 彷徨が始まる。

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  幼い日、あんまり当たり前に周りにあって、無造作に摘み取っては遊びにつかったエゾタンポポである。
  当時はそんな和名も知らなかったし、今では主流になった西洋タンポポなど見たことはなかったかもしれない。

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  理科という単元が好きでした。 周りを取り囲む世界の理(ことわり)を紐解いて いつも私を驚かせてくれた。
  花弁が五枚の多くの合弁花からなる集合花であること‥  花を仔細に見ることは、きっとこの花に教わった。

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 今、数種のタンポポが周りにある中で、故郷の蒲公英はそう多くはありません。
 記憶にあるほどの草丈もなく遠慮がちですし、色も淡いものが多いのは、交雑がすすんでいるのかもしれません。

  それでもこのタンポポを私は知っている。 それは後年しみついた薄っぺらな知識などではなく‥ 
                         僅かに確かな 故郷の記憶として。




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# by moraisan | 2016-04-23 03:07 | 山野草・樹木 | Comments(8)