野なかの薔薇‥    ノイバラ
 
  入梅を前にして咲き始め、空気を匂わす花がふたつあると思っています。
  ひとつはアカシア(ニセアカシア)、もうひとつがノイバラです。
   
  ふたつはどちらも木の花ですが、背丈も随分違いますから、その香の風の運びも違うのでしょう。
  私の感覚ではアカシアはまず夜気にその香に気づき、ノイバラは日の高い日中に気づく‥ そんな感じです。

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  森に向かう路の入口あたり、日陰のノイバラは、その先の森のこの花の おおよその目安であったりします。

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  多くの花を咲かせるノイバラですが、ひとつひとつは短い花いのち‥ それをつないで咲きほこります。

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  幹を持たない野の薔薇は、森では夏草や他の低木と絡み合い そのの混沌の中に花を咲かせます。

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  棘でその身を守るかのようなのに、この蔓性の木が絡んだ他者を弱らすのを 私は見たことがありません。

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  ただ時間軸を伸展することだけに向けた野の薔薇は、誰にもまして自由に歩く木なのかもしれません。

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        夏に蜜や花粉を虫たちに、その実は冬に鳥たちに。  ‥奪うことなく、与えることが生きること‥
             もしこの野バラに信条を問うたなら、 こんな返事が返ってくるような気がします。  






 
  日本において野バラと言えばこの薔薇を指すことに、異論は多くないと思います。
  ドイツの詩人、ゲーテになる歌詞だと言う歌曲『野ばら』には、原詩にも訳詩にも紅い薔薇と歌われます。

  圧倒的に白花が多いノイバラですが、時折紅(くれない)に染まる花もあって異国の野ばらに思いをはせます。

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  この場所の紅い野ばらは近年出逢ったもの。 花色は淡いですが、蕾の時は真っ赤です。

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  園芸品種の薔薇たちは、この豊かな蕊を花びらに姿変えたもの。 それを私は少なからず惜しく思います。 

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  『野ばら』の二番の歌詞、‥手折らば手折れ 思い出ぐさに 君を刺さん‥ と続きます。
  「折りたければ折りなさい、そのかわり忘れないようにあなたを刺しますよ」 と言うのです。
  三番の歌詞ではついに野ばらは手折られて‥ 私はそれが好きではありません。

  多くの花のなかにあっても、ノイバラの香は優れていると思います。
  手折った少年はその香に後悔したのでしょうか‥ 原詩も訳詩も謎めいています。



                              ※写真はクリックで拡大いたします。





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by moraisan | 2016-06-06 19:08 | 山野草・樹木 | Comments(6)
Commented by ironsky at 2016-06-06 22:10
こんばんは。
可憐な姿ですね。
派手さはなくても、その存在はしっかり伝わってきます。
競争の中で身につけた強さなのでしょう。
Commented by moraisan at 2016-06-06 23:33
> ironsky さん、こんばんは。
ノイバラの藪は目立つので、私はそれを頼りに訪ねる花や木々も多いです。
ノイバラの葉は他を影することも少ないですし、他を絡めとるようなこともないように見えます。
競争と言うよりは競演と言った感じでしょうか^^
Commented by sternenlied at 2016-06-07 13:20
近くの運河に沿って野のバラがたくさん咲いています。
先週の日曜日の朝に散歩に行ったのですが、野のバラの
清らな香りが辺り一帯に漂ってました。
千年のバラのところでは本当濃い蜂蜜のような香りが
辺りに満ちてましたけど、運河のバラは仄かでしたね。

私も、野バラは白や淡いピンクが多いのに、
何故ゲーテの詩では紅いのかと思いましたよ。
野バラの濃い色にしても紅というよりは
ハマナスのような濃いピンクですものね。
ゲーテの時代はrosa(ピンク)もrot(紅)と言い表していたのかもしれませんが。
ピンクというのはrosarotとも表現されるようですし。

歌の「野ばら」の詩は謎めいてますよね。
ゲーテのある女性に捧げた恋の歌だとも解釈されてますが。
そうだとすれば、3番の歌詞はファウストにも繋がっていってるように思えます。
バラといえば、星の王子様も思い出してしまいますね^^
星の王子様の場合、行動がこの野ばらの少年とは対極をなしてるように思えますが。
Commented by mimi-74 at 2016-06-07 14:01
こんばんは!
白いお花も活き活きした緑の葉も美しいですねぇ。
California wild roseは優しいピンクなのですよ。夏は雨が降りませんので池など水に近い場所に茂っています。
私が度々訪れる公園には「薔薇園」があり高い金属の格子状の柵に囲まれ中には新種の薔薇が沢山咲いています。
薔薇のお花は鹿の大好物なのだそうです。
でも、この公園は山裾(と言っても私の足で20分も登ると一番上に着きますが)に続いていて、その一角にワイルド・ローズが咲いていますが、鹿が食べた様子がありません。
ラス・ガリナス(干草が積んであったところ)の池の側にも大きなワイルド・ロースの茂みがありますが、お花が咲いています。鹿が食べないのは何故なのかしら・・・首を傾げてしまいます。
Commented by moraisan at 2016-06-07 20:34
>mira さん、こんにちは。
暗いほど繁った木々、強まる草いきれの中にあって、その香によって気づかされる数少ない花だと思っています。
紅(くれない)と表現される色は多様ですね。
高山にはタカネバラという深紅のバラもありますが、私の『野ばら』のイメージはずっとこの野の薔薇でした。
ゲーテの恋慕の情まではわかりませんが、この花のありよう生きざまをよく知り、思いを重ねてのだろうことは感じてきたことです。

さて王子の星と私の森と、比べてどっちが広いでしょうか^^
ただその狭い世界の野ばらを訪ね歩くうちにも過ぎていく季節を時を、かけがえのないものだと思う気持ちは、年々強くなるようです。
Commented by moraisan at 2016-06-07 20:58
>mimi さん、こんにちは。
mimi さんがカリフォルニアから、また sternenlied さんがドイツから、それぞれの地で思いの深い「野ばら」のお話を聞かせてくださることを、たいへん嬉しく思います^^

人の手になる薔薇は、花びらもふくよかなものも多いですし(食用薔薇もありますよね)、鹿たちにもご馳走に見えるのかもしれませんね。
ワイルド・ローズがこの地の野ばらに近いものとして、こちらでも鹿はこの花を食べませんね。
ただ冬の日に一度だけ、その小さな赤い実を枝ごと鹿が食んでいるのを見たことがあります。


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